バーンスタインのDVD、音楽のよろこび。7枚セットで2万円もするが購入しておいたのを寝正月に観た。実に面白く、元はとれた。一般向けに若き日のバーンスタイン本人が企画、主演した5年間にわたる音楽のテレビ入門番組を編集したものである。クラシック、ミュージカル、ジャズ、オペラと幅広いジャンルをカバーしてそれぞれ一流のバーンスタインによる、オーケストラ実演を含めた音楽講義だ。知識として役に立つだけでなく、バーンスタインの全身音楽家、という身のこなしを見ているだけで刺激になる。
1.ベートーヴェン5番
5番を、ベートーヴェン本人の不採用稿を実演することによって、数年の制作期間の間にどのように曲が練り上げられていったかを解き明かす。同種の映像や情報はこれまで観たことがなかった。オーケストレーションについても、楽器を縦に並べて、出だしでフルートを入れたりとったりして比較を聞かせてくれる。面白い。
2.ジャズの世界
ブルーノートとか、シンコペーションとか、ジャズの基本要素がやっと分かった。こういうのは本で読んでも分からない。シンコペーションをいれずにジャズナンバーを実演してみるなど、極めて面白い教育番組になっている。
3.指揮法
指揮者の仕事の中身、最も基本的なリズムの振り方から、「偉大な指揮者」に必要な要素を順番に実演解説していく。これを玉木宏は見るべきだ。のだめでの指揮振りがもっともらしくなるんじゃないだろうか。
4.アメリカのミュージカル
本格的なミュージカル論。この回から放送ネットワークが変わって1時間以上と長くなった。好評なので拡大したのだろう。オペラからミュージカルにいたる道筋が解き明かされ、どのように芸術性を獲得していったかが良く分かる。バーンスタインは音楽のジャンルに偏見を持たない優れた芸術家だ。
5.現代音楽入門
バーンスタインによる現代音楽解説。現代音楽の難解さの理由とされるメロディーのなさ、不協和音への偏見を実証的に是正した後、トリスタンとイゾルデのめまぐるしい転調を紹介し、12音技法、新古典主義、新ロマン主義など調性派、無調派の両面での変遷を実演を交えて解説していく。単純さ、客観性、ユーモア、簡素な構造性、複調性、クロスリズムなど現代音楽の道具立ても紹介されている。これは必見である。
(紹介されている曲)
トリスタンとイゾルデ序曲
シェーンベルク 浄夜
アルバンベルク ヴァイオリン協奏曲 歌劇ヴォツェック 叙情組曲
ドビュッシー 牧神の午後
サティ ジムノペディ (単純さ 客観性)
ショスタコビッチ 交響曲5番 (ユーモア 簡素な構造性)
ストラヴィンスキー 管弦楽のための8重奏曲 (新古典主義)
コープランド アパラチアの春
ハリス 第三交響曲
プロコフィエフ 第5交響曲 (新ロマン主義)
ヒンデミット 弦と管のための演奏会音楽 (複調性)
ストラヴィンスキー ペトルーシュカ
ストラヴィンスキー 春の祭典 (クロスリズム)
ガーシュウィン 落ち着かない足
コープランド エルサロメヒコ
ミヨー 世界の肖像
バルトーク 弦と打楽器とチェレスタの音楽
ストラヴィンスキー 詩篇による交響曲 (現代的な3和音による終結)
(映画)蜘蛛の巣 ローレン・バコールのシーンの映画音楽
ラヴェル ピアノ協奏曲ト短調
6.JSバッハの音楽
バッハ音楽が退屈と感じる理由として一楽章一主題で対比によるドラマ性を避けている点を指摘。対位法とハーモニーのパズルの面白さ、コラールとコラール前奏曲、カノンとフーガ、そしてマタイ受難曲の聴き所の情熱的な解説。分かりやすいようにマタイは英語で実演されている。マタイの解説として色々な文章が書かれているが、このDVDは必見。思わず身を乗り出して画面を凝視してしまう。他のことがどうでもよくなってくるのがバッハの特徴かも。バーンスタインはバッハの信仰心を創造の原動力と解説している。そう思いたくもなるというもの。立身出世がかなわなかったことこそ天の配剤で、当時の聴き手への受けをさほど気にせず多くの作品を残せたのではないか。
マニフィカト イタリア協奏曲 フルートソナタのジャズ版 対位法の十分に詳しい解説 フーガ 水平と垂直 コラール聖なる神の子羊 コラール前奏曲 カノン的な二声インヴェンション カノンからフーガへ マタイ受難曲 キリストの生涯 英語版で「私がですか」 数字への神秘主義
7.何がオペラを”Grand”にしているか
ラ・ボエームを英語セリフ劇にして実演し、オペラの効果と比較して分析するという趣向。これはもう二つとない映像だろう。収録のために借り切られたオペラハウスも今はもうないオールドメトというところらしい。特に重唱の面白さの指摘が勉強になった。バーンスタイン、本当にお疲れ様です。なんとこのDVDの内容が吉田秀和の翻訳で昭和41年(僕が一才のときだ)に本になっている。古本ネットで2冊あったので早速注文した。
トリスタンとイゾルデ カルメン ファウスト ボリス・ゴドゥノフ サロメ オセロ ラ・ボエーム
バーンスタインのDVDは他に大学での講義の模様を収録したものが手元にある。楽しみ。このDVDも、学校の授業で使うべきだ。学校では、芸術のリテラシー教育をもっともっと強化するべきだ。
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